部員コラム #02

推理小説愛好家文芸部員推薦作品群紹介


 

 どうも、こんにちは。今回コラムを書かせていただきます、家根川颯馬です。

 

 コラムを頼まれた時、小説の話のほかに、さだまさしの歌の話でもしようかと思ったのですが、需要がなさそうなので、それはあきらめました。やはり文芸部らしく、小説の話(ただし、ジャンルはミステリ)をしようと思います。さだまさし、好きなんですけどね……。

 

 さて、何を書きましょうか。正直に言って、今これを書いている段階ではまだ何も決めていません。多少行き当たりばったりになるかもしれませんが、あしからず。

 

 うーん……。

 

 そうですね、好きな推理小説の話でもしましょうか。ネタバレを避けながら個々の推理小説について話すのは面倒なので、好きなシリーズについて話しましょう。

 

 

 

 では、三つほど紹介したいと思います。まずは、森博嗣の「S&Mシリーズ」から。

 

 S&Mシリーズは、第一回メフィスト賞を受賞した著者のデビュー作「すべてがFになる」に始まる推理小説シリーズです。ドラマ、アニメ化されたのでご存知の方も多いと思います。まあ、映像化される前から有名ではあったのですが……。

 

 このシリーズは刊行順に、「すべてがFになる」から読み始めたのですが、一冊目から圧倒されました。1996年の本だというのに、今読んでも近未来的な(でも、SFではない)孤島の研究所と、そこで起こる凄惨な殺人。主人公たち――助教授の犀川創平と、学生の西之園萌絵の、純理系的思考、発言。そして、奇抜なトリック。どれもこれも新鮮で、楽しく読書を終えました。アクロバティックなミステリ、という印象でした。

 

 しかし、シリーズ二作目、「冷たい密室と博士たち」を読んでみると、今度は細部まで編み込まれたロジックが光る純粋な本格ミステリ。「すべてがFになる」と同じような飛躍した推理小説を想像していた僕は、いい意味で期待を裏切られました。一作目を不思議なシュールレアリスムの絵画に例えるなら、二作目は緻密な写実主義の逸品です。これもまたいい。

 

 三作目、四作目、五作目……と次々に読んでいきましたが、どれもこれも傑作ぞろい。シリーズ最終作の「有限と微小のパン」などは、このシリーズの有終の美を飾るにはもうこれ以上ないだろうと思うくらいにかっこいい作品でした。

 

 ちなみに、個人的には、五作目の「封印再度」がお気に入りです。

 

 

 

 次にまいりましょう。今度は、泡坂妻夫の「亜愛一郎シリーズ」です。

 

 このシリーズの魅力としては、生き生きとしたキャラクター、味わいのある語り口、一風変わった謎の数々、そして巧みなトリックなどなど……。まさに、お手本のような推理小説シリーズです。

 

 シリーズの作品はすべて短編でありまして、特に好きな作品を上げるならば、「ホロボの神」と「病人に刃物」でしょうか。

 

 「ホロボの神」は、ホロボ島という島で戦時中に原住民が自殺した事件を、船上で出会った若い男(亜愛一郎)に語ったところ、その男が意外な推理を始めるという話。言葉も通じず、文化もまるっきり違うホロボ島で起こる事件は、まるで異世界の出来事のようです。もちろん、その事件のトリックや動機も、異界ならではのもの。読み終えた後の余韻も味わい深い作品です。

 

 「病人に刃物」は、病院の屋上でつい先ほどまで話していた患者が腹を刺されて倒れているところに遭遇したのだが、それまでその患者に近づいた者はいなかった。いったいどうやって患者を刺し殺したのか、という話です。この作品のトリックには、かなり驚かされました。事件の状況を指定されれば、このトリックを見破ることも不可能ではないだろうとは思いますが、しかし、これを思いつくとなると、まず常人には無理でしょう。

 

 二つだけ紹介しましたが、無論、他の短編も秀逸なものばかりです。どの作品においても、無駄な小道具は一切なく、すべてが真相やオチに結びつく伏線で、その真相にたどり着くまでの論理展開もうまい。随所に著者の遊び心も見られ、推理小説的な面白さに頼らずとも十分に楽しめます。まさに、職人芸。

 

 

 

 それでは、最後のシリーズを紹介しましょう。三津田信三の「刀城言耶シリーズ」です。

 

 このシリーズの見どころは、なんといっても、解決部分の怒涛のどんでん返しでしょう。このシリーズの長編の多くでは、探偵役が事件の解釈を語る時に、一度提示された解釈をあっさり捨てて別の解釈を持ち出してくるという、驚天動地のどんでん返しが起こります。しかも、場合によってはそれが一度だけではない。さらにさらに、使われているトリックも大がかりなので、世界が丸ごと三回転しているような(何を言っているのかよくわからないかもしれませんが)、そんな感覚に陥ります。このシリーズではホラーとミステリの融合が図られていて、そのおどろおどろしい雰囲気も好きなポイントの一つです。

 

 特に、シリーズ第三長編の「首無の如き祟るもの」などは、推理小説においては定番中の定番であり、作例が無数にある「顔のない死体」を扱いながらも、そのトリックは意外や意外、そうきたか、と思わされる抜群の美技です。それに力強いどんでん返しが加わるのですから、もうお見事というよりありません。

 

 シリーズの短編も、どんでん返しのある作品は少ない(でも、ないわけではない)ものの、怪異がすぐそばに潜むその世界観と興味深いトリックは健在。個人的には、「顔無の如き攫うもの」という短編の(詳しくは明かせませんが)冷酷無慈悲なトリックが好きです。

 

 そして、もう一つ、このシリーズで忘れてはいけないのは、推理小説の分類です。このシリーズにおいて、主人公で探偵役の怪奇作家、刀城言耶は、事件解決時にしばしば、その事件に関連する謎の分類をします。

 

 例えば、首斬りがテーマの「首無の如き祟るもの」では「首の無い屍体の分類」がなされますし、見立て殺人の起こる「山魔の如き嗤うもの」では「見立て殺人の分類」が行われます。これは、ミステリファンにはたまらない趣向です。

 

 

 

 ……と、三つのシリーズを紹介してみたのですが、いかがでしょう。まだ未熟なので、いまひとつシリーズの魅力を伝えられていないような気がします。一応、かなり力を入れて取り組んだつもりではあるのですが……。

 

 とにかく、どのシリーズもとても良質な推理小説だと思います。今も、僕はこの文章を書きながら、それぞれの小説の素晴らしさに身悶えしているくらいです。

 

 未読の方には、わずかでも興味を持っていただけるように、そして、既読の方には、少しでも共感していただけるように、と思ってこのコラムを書きました。

 

 もし、あなたが今、その通りになっているなら、これほどうれしいことはありません。

 

 そうでなくても、ここまで読んでいただいたことに、心より感謝いたします。

 

 ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、紹介させていただいたシリーズの主な作品リストです(20169月時点)。

 

 

 

 

 

 

 

 『S&Mシリーズ』

 

 

 

    すべてがFになる The Perfect Insider

 

    冷たい密室と博士たち Doctors in Isolated Room

 

    笑わない数学者 Mathematical Goodbye

 

    詩的私的ジャック Jack the Poetical Private

 

    封印再度 Who Inside

 

    幻惑の死と使途 Illusion Acts Like Magic

 

    夏のレプリカ Replaceable Summer

 

    今はもうない Switch Back

 

    数奇にして模型 Numerical Models

 

    有限と微小のパン The Perfect Outsider

 

 

 

   以上は長編。その他、森博嗣の短編集に所収されている短編がある。

 

   すべて講談社文庫。

 

 

 

 

 

 

 

 『亜愛一郎シリーズ』

 

 

 

    亜愛一郎の狼狽(第一短編集)

 

      DL2号機事件

 

      右腕山上空

 

      曲った部屋

 

      掌上の黄金仮面

 

      G線上の鼬

 

      掘出された童話

 

      ホロボの神

 

      黒い霧

 

 

 

    亜愛一郎の転倒(第二短編集)

 

      藁の猫

 

      砂蛾家の消失

 

      珠洲子の装い

 

      意外な遺骸

 

      ねじれた帽子

 

      争う四巨頭

 

      三郎町路上

 

      病人に刃物

 

 

 

    亜愛一郎の逃亡(第三短編集)

 

      赤島砂上

 

      球形の楽園

 

      歯痛の思い出

 

      双頭の蛸

 

      飯鉢山山腹

 

      赤の讃歌

 

      火事酒屋

 

      亜愛一郎の逃亡

 

 

 

   以上、すべて創元推理文庫。

 

   その他、愛一郎の先祖、智一郎が活躍する「亜智一郎シリーズ」がある。

 

 

 

 

 

 

 

 『刀城言耶シリーズ』

 

 

 

    厭魅の如き憑くもの

 

    凶鳥の如き忌むもの

 

    首無の如き祟るもの

 

    山魔の如き嗤うもの

 

    水魑の如き沈むもの

 

    幽女の如き怨むもの

 

 

 

    密室の如き籠るもの(第一短編集)

 

      首切の如き裂くもの

 

      迷家の如き動くもの

 

      隙魔の如き覗くもの

 

      密室の如き篭るもの

 

 

 

    生霊の如き重るもの(第二短編集)

 

      死霊の如き歩くもの

 

      天魔の如き跳ぶもの

 

      屍蝋の如き滴るもの

 

      生霊の如き重るもの

 

      顔無の如き攫うもの

 

 

 

   以上、特に記述がないものは長編。すべて講談社文庫。

 

   その他、「ついてくるもの」(ノベルス版)に短編「椅人の如き座るもの」が収録。

 

   ただし、文庫版の「ついてくるもの」には収録されていないので注意。