部員コラム #01

「邪眼の蜥蜴はイレギュラー」完結記念コラム


 

えー、改めまして、漸道光定……です。このペンネームはその場のフィーリングで決めたので、あまり気に入らないのですが……まあ、それはよしとしましょう。

 

 このたび、私の小説「邪眼の蜥蜴はイレギュラー」は、一応の完結を迎え、次の学苑からは、タイトルを変えての続編掲載となります。今打ち込んでみても、とんでもなく痛々しいタイトルですね。「邪眼」で「蜥蜴」で「イレギュラー」って。

 

 しかし、これこそ私が描きたいものといっても過言ではありません。

 

 話は変わります。たまに、こういうことを聞かれることがあります。「……あなたは、この小説を通して何を伝えたいのか?」

 

 それに対しての私の答えは、だいたいこうです。「別に、何も伝える気なんてありませんよ。僕は、僕が楽しければそれでいいので」

 

 小説を書く者としては、最低の答えですね。こんなことでは、どこの教科書会社も私の小説を国語の教材として載せることはないでしょう。ありがちな、「この筆者は何を伝えたいのか?」といった問いに、答えがないのですから。

 

 「作家の自己満足」と言われたこともあります。まったくその通りです。私は、自分の楽しみを第一に考えて、小説を書いているのです。

 

 言うなれば、私の小説は、子どもの空想の延長です。「もしも空がとべたらなあ……」 「もしも、自分がスーパーヒーローだったらなあ……」 誰だって、そういったことを一度は想像したことがあるのではないでしょうか。そしてそういった想像は、きっと、とても楽しいものだったのではないでしょうか。

 

 それらを積み重ねた結果生まれたのが、私の小説です。「もしも、トカゲ男がいたらなあ……」「お姉ちゃんがいたらなあ……」「やべえ、全てを石化させる左目って超かっこよくね? 強すぎやん!」といった、自分が『テンションが上がる』シチュエーションを、次々と合成しただけのもので、何のメッセージ性もありません。別に、家族愛の素晴らしさを伝えようとか、怒りに呑まれるなとか、そういったことは微塵も考えてはいないのです。

 

 では、なぜ文芸部に入ったのか? 簡単です。大っぴらに小説を書ける場所が欲しかったのです。

 

 趣味を「読書」と言う人は数多い。でも、「執筆」となると、数はかなり減ります。やはり、「小説を書く」ということには、自分の中で越えなくてはならない精神的障壁があるのです。だから、中学校のころまでの私は、空想をすることが大好きだったにも関わらず、小説を書こうという気にはなりませんでした。いや、一度書いてみようと思ったことはあるのですが、小さいノートの一ページ目で挫折しました。常に小説のことに脳内のワーキングメモリを使うほどの根気がなかったのです。そのため私の頭の中には、形にならないままに、たくさんの『テンションが上がる』数々のシチュエーションだけが蓄積されていきました。

 

 その後、私は高校に入りました。中学時代はテニス部に所属し、運動部はもうこりごりだと強く思っていたので、高校では好きなことをやろうと決めていました。

 

 はじめは、趣味であるトレーディングカードゲームの部活をつくるつもりでした。しかし、人脈の不足から断念しました。当然です。高校に入ってすぐに、そんな友人がぽんぽんとできるほどのコミュ力は、私にはありません。同じ中学から来た人も何人かいましたが、皆カードゲームにそこまでの情熱は持っていませんでした。まあ、人数が集まったにしても、この誇り高い学校(笑)でそんな部活が許されたとは思えませんが……。

 

 トレーディングカード部の設立をあきらめた私には、次の趣味である読書、絵、そして空想が残りました。となると考えられるのは、美術部、漫画研究部、そして文芸部くらいのものです。しかし私は、絵を描くだけというのには、なんとなく物足りなさを感じていました。ならば漫研……しかしこちらは、頭の中では一瞬で映像化できる空想をちまちまと絵にして語っていくのが、実に面倒に感じられました。結局、消去法で文芸部に入ることにしました。しかし、それを決めたときは期末テストが数週間後に近づいており、入部届を出すだけ出しておいて、テストが終わってから行く形になりました。これが、「いつのまにか入部」の真相です。

 

 初めて部活に参加した日、私は驚愕の事実を言い渡されました。なんと、文化祭号の締め切りが数日後に迫っていたのです。当時の部長は、「無理だったら、仕方ないよ」というようなことを言ってくれたことを覚えています。

 

 しかし、私はやる気十分でした。なぜなら、頭の中にはすでに、今までに蓄積されてきた空想が腐るほどあったのですから。

 

 そのうち、すぐに形にできそうなものを選び出してキャラの設定を掘り下げ、プロット(小説のだいたいの流れを書いた、メモのようなもの)を作り、いざ書き出してみると、これが楽しいのなんの。まるで私の心の中で生きているかのように、キャラクターたちが動いてくれて、原稿はあっという間に完成してしまいました。

 

そこから私は執筆のとりこになりました。こんな人いたらいいな、こんな設定いいな……湯水の如く、アイデアがあふれてきました。『テンションが上がる』ことの想像が積み重なって、さらに私のテンションは上がりました。空想とはすばらしいものです。体を一切動かさずとも、ただ思い描くだけで心が躍るのですから。

 

その『テンション』のために、私は小説を書いているのです。このタイトルも、私の『テンションが上がる』ものだけで構成されています。『邪眼』は、ストレートな厨二病要素。『蜥蜴』は、恐竜や爬虫類・怪獣好きの心をくすぐり、最後の『イレギュラー』も、なんとなく厨二的な雰囲気があってかっこいい。はい、私は厨二病です。

 

ですが、必ずしも自己満足とは言えないかもしれません。私の作品を「面白い」と言ってくれる人に出会えた時でも、私はテンションが上がります。自分が認められようが認められまいがどうでもいい、みたいな態度をとっているように見える私でも、やはり認めてくれる人に出会えた時は嬉しいものです。

 

私が小説を通して伝えたいこと……それは、「私自身」なのかもしれません。自分のなかの『テンションが上がる』ことを、読み手にも知ってもらって、一緒に楽しむ。「これ、すごくね? やばくね?」と、自分の価値観に対する共感を得たい。それができたとき、私の中では、『テンションが上がる』ことを感じます。

 

ただ、あくまでそれは副産物的なものであって、小説を書く本来の目的ではないと、心のどこかで私は思っています。基本は一貫して、自分の『テンションを上げ』たい。自分が楽しむためです。その自分勝手から生まれたものに、少しでも共感を示していただけると幸いです。

 

 

 

さて、せっかく完結記念コラムということなので、この作品の背景にも少し触れておきましょう。

 

まず、最初に謝罪させていただきたいことがあります。今回登場した時間の神・クロノスですが、実際のゼウスの父親であるクロノスという神は、農耕などを司る神です。同名で時間を司る神が存在し、はじめはそちらと混同しておりました。しかし、農耕の神といいますと、キャラクター性として、また今後書いて行く上でのモチベーションとして物足りなさを感じたため、そのまま進めさせていただきました。ここでお詫び申し上げますとともに、読者の皆様方のご理解とご協力をお願い申し上げます。

 

お話の舞台は「柚葉市」。これは、私の地元・箕面市の特産物のゆずからとっています。街のモデルも箕面市で、田舎と都会の中間のような街ですね。……いや、市全体で見たら中間なんです(と私は思います)。国道通ってるし。キューズモールもあるし。何年かしたら地下鉄も来るんだからねっ!

 

……えー。話がそれましたが、なぜ箕面市をモデルにしたかというと。やはり、自分たちが生活している街の中に、実は異形が潜んでいて、人知れず戦いが行われている……というシチュエーションに、『テンションが上がる』からです。そのテンションをより高くするために、生活感のある地元を選んだのです。「自分が住んでいるような街」というのがポイントですね。「もしかしたら、彼らはあなたの街にも潜んでいるかもしれない……」テンション、上がりませんか?

 

続いて、気になるキャラクターをピックアップしていきませう。

 

まずは理里。普段はクールそうにしているが、デレるとかわいい(これ、完全に女性キャラの説明ですが)男の子。作者の分身だとよく思われますが、そうではありません。どちらかというと、私の友人のひとりの性格の一部分を参考にしています。

 

「トカゲ男」という設定は、先ほどもタイトルの説明で触れたように、私自身の爬虫類好きによるものです。蛇やトカゲを触るのは苦手なのですが、見た目には強いあこがれを感じます。また「蛇皇眼」は、完全なる厨二要素ですね。

 

今回登場の「崩戒の鎮魂曲」は、対地獄の能力として作ったと言っても過言ではありません。なんせ、時を止める相手と戦うには、自分も時を止めるしかないというのは定石ですからね……結果的に、理里くんはただのチート野郎になってしまいました。おかしいでしょ、邪眼にブラックホールに時間停止って。これ以後、彼を自由に動かしていける自信が私にはありません。

 

次に、珠飛亜。彼女は、この作品の中でも数少ない、外見のモデルがいるキャラクターです。そう、言わずと知れたPerfumeのメンバー・のっちさんです。性格的にはかけ離れていますが、そこは……ね。やっぱり、無条件に主人公を愛してくれるキャラがほしいな、と。そんな汚い願望から生まれたキャラですが、今では最も動かしやすい、いや、それを通り越して勝手に動いてくれるという、作者にとってはいろんな意味で大好きなキャラです。はい、すいません。ここは忘れて。

 

お次は、紫苑。彼女は外せないでしょう。サブヒロインのはずだったのに主人公の恋人の座を勝ち取ってしまった大穴……という印象が私にはあります。でも、今になって思い返してみると、彼女を考えるときには、『理想の女性像』を限りなく追及した覚えが。そして、学苑のページ数の都合上、かなりのシーンをカットさせられた覚えが。そうだよ、本来は出会いの場面から書くはずだったんだ……最高にキュンキュンする告白シーンとかもあったんだ……。実は、元ヤン設定とかもあったんですよ? 話し方が少し男らしいのは、その名残です。

 

最後に、地獄。これはもう、「やべえ、作者の痛々しさ満載だわ……」というキャラを、ひとり作ってみたかったがゆえに、こんな感じになりました。ペルセウスをライバル要員としてどこかで出すことは最初期から決まっていました。一回きりで死んでしまいましたが……いい感じに、展開を盛り上げてくれましたね。

 

 

 

さて、そろそろお別れの時間が近づいてまいりました。先ほども書きましたように、次回からはタイトルを変えての掲載となります。完全なる続編ですが、他のキャラクターの視点から描く場面もいくつかあったりして。

 

新キャラも続々登場します。特に春号では、あの珠飛亜をも超える変人も……こいつがでてくるのを私自身とても楽しみにしています。ぜひご期待ください。

 

私の小説で、少しでもあなたの『テンションを上げ』られるよう、これからも努力していきたいと思います。

 

 

 

 

 

旅行前日ゆえに地元の祭りに行けないことに憤慨しながら

 

漸道 光定